2024/06/13

「宿題」の実際

「宿題したの?」

「いや、まだ。」

「すぐにしなさい!」

「嫌だ。あとでする。」

帰宅後、子どもの話を聞く前にこのようなやり取りを日々繰り返してはいないでしょうか?

「宿題」の存在って、すごく大きいですよね。

学校、家庭、私たちのようなアフタースクール、放課後児童クラブ等にまで影響しています。

今回は、こういった「宿題」そのもの存在、現状について、見ていきたいと思います。

結論から言うと、「宿題」が学力向上に繋がっているかといった、はっきりとした根拠、研究結果は今のところ乏しい状況です。

ちなみに「宿題」の有無についての議論ではなく、「宿題」そもそもの目的などを考えます。

そもそも、「宿題」がない学校は全国各地結構ありますし、文部科学省も、国の学習指導上の基準を示した学習指導要領の中で、「宿題」を出すように学校側に求めてもいません。

宿題は、いつから出されるようになったの?

佐藤(1999)によると、20世紀初期の頃から、学ぶ内容が増えすぎたため、学校で教えきれなくなり、家庭に持ち帰り、その内容を勉強させたことが始まりだったとされています。

要するに、大人の仕事でも存在する「持ち帰り仕事」の位置付けですね。

そこから、今までなんとなく続いてしまっていると考えられます。

宿題は、そもそも何のため?

私たちはそもそも宿題に何を求めているのでしょうか。

狭い意味での「学力」向上?

学習習慣の確立?

提出期限などを守らせる練習?

どれも最もらしく見えますが、明確な答えは今のところ、研究でも示されていません。

おそらく教員含め大人たち、子どもたちは思い思いに宿題の目的を考え、それを互いに押し付け合っているのです。

そのため、話が噛み合わないのではないでしょう。

少なくとも、提出期限を守ることは、「宿題」以外の提出物等で代用できます。

「宿題」に色々求めすぎているのではないでしょうか?

本当に宿題で学力が伸びるのか

さて、一番の注目のトピックかもしれません。

宿題で、学力が伸びるといった因果関係は、今のところ見当たりません。

Cooper(2007)によると、アメリカの小学生を対象に行った研究の結果、宿題にかけた時間と学習成果(テストの結果など)の関係性はほぼ見られないとしています。

つまり、宿題に特にたくさん時間をかけたから、テストの結果が良くなるといったことはほぼないと研究では言っているのですね。

日本でも、淡野ら(2022)が小学生を対象に宿題と算数の成績について調査しています。1日に行う宿題の時間と算数の成績には相関関係(そこに関連性があるかどうか)はありませんでした。

また、住田(2022)によると、教師が出す宿題をしないことが学力低下につながるとは限らないことが示唆されています。

また、Trautweinら(2002)は、宿題を大量に与えることや教師が宿題を点検しないことには学力向上の効果はないことを述べています。

自力で「宿題」ができない子どもや「宿題」にとても長い時間がかかってしまう子どもには、むしろ動機づけの低下や誤った学習習慣を身につけさせることに繋がる可能性があるようです。

お家の人も教師も子どもも忙しすぎる

小学生の段階では、お家の人が子どもの宿題を点検することが多くの学校で求められていることでしょう。

まず、お家の人は、普段仕事や育児、家事などで多忙で、日々をどうにか回していくことに必死で取り組んでおられると思います。その中で、子どもの宿題を見るといったタスクが重なり、さらに忙しくなります。時にはイライラしてしまうかもしれません。

宿題を出している教師も忙しいのです。

宮崎(2022)によると、宿題確認にかかる時間は約43分となっています。1回の授業時間くらいある印象です。

また、教師自身が宿題を出したくないと思っていても、他のクラスが出しているから、学校の方針だからといった横並びの雰囲気で出さざるを得ない環境になっていることが多くあります。

子どもに関しては、貴重な放課後時間が奪われ、とても大切な遊ぶ時間が減少しています。

ベネッセ教育総合研究所(2016)の調査によると、1日あたりの宿題の時間は1998年の27.2分から2016年の39.1分にまで長期的には増加しています。子どもが宿題と関わる時間が増えています。

こういった、みんながお互いに多忙な状況を作り出してしまっているのが現状です。

さて、宿題に関して、現状を知り、どのようなことを改めて考えるでしょうか。

宿題が色々と生活に食い込んでいる中、出し方の工夫や宿題のとらえ方の転換、家庭学習の新たな方法を考えることなどが大人にも求められそうです。

正解はないと思います。しかし、少なくとも、宿題が元で子どもと関係が悪くなったり、空気が悪くなったりするのは避けたいところです。

それよりは、みんながハッピーな時間を一緒に過ごした方が子どもたち、大人たちにとって、より有意義だと考えています。こういった宿題の実際を知った上で、子どもと関わり、より適切な言葉かけなどができると良いですね。

あとは、「勉強」、「宿題」は耐えるもの!といった固定概念を子どもたちに植え付けないようにしなくてはなりません。小中高時代の学びが次第につまらなくなってきます。

学びは本来楽しいもののはずです。

新しいことを知れるのですから。

人間の欲求のはずです。

GO Lab.では、多くの学校で「宿題」が出されている以上、今のところテラコヤというプログラム内で「宿題」を一緒にしています。

ただし、GO Lab.内での大切な「体験」の時間が圧迫されるのも事実です。そのため、現段階では、保護者の皆様の意向を伺いながら進めているところです!

(記事執筆:足立 隆弘)

引用・参考文献

佐藤秀夫(1999)『宿題』はなぜ生まれたのだろう-その歴史の意味するところ-.おそい・はやい・ひくい・たかい No.2.

Cooper(2007)The Battle over Homework: Common Ground for Administrators, Teachers, and Parents (3rd ed.). Corwin Press, p.30.

淡野翔太,浦内桜,越中康治(2022)小学校における宿題と算数の成績の関連. 日本教育心理学会第64回総会発表論文集.

住田裕子(2022)小学生に宿題はなくてはならないか-選択制家庭学習の試みとその結果から-. 日本教育心理学会第64回総会発表論文集.

Trautwein, U., Köller, O., Schmitz, B., & Baumert, J. (2002)Do homework assignments enhance achievement? A multilevel analysis in 7th-grade mathematics. Contemporary Educational Psy-chology, 27(1), pp. 26-50.

ピーター・グレイ,吉田新一郎(訳)(2018)遊びが学びに欠かせないわけ-自立した学びてを育てる-. 築地書館.

宮崎麻世(2022)小学校における宿題に対する教師と保護者の意識に関する考察-フォーカスグループ・インタビューの分析を通して-. 学校改善研究紀要第4巻.

ベネッセ総合教育研究所(2016)第6回学習指導基本調査DATA BOOK.

丸山啓史(2023)宿題からの解放-子どもも親も学校も、そして社会も-. かもがわ出版.

ジョン・ハッティ,山森光陽(訳)(2018)教育の効果-メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化-. 図書文化.